
せっかく作った手順書やマニュアルが伝わりにくいのはなぜでしょうか。
自分の手から離れて独り歩きしてほしかった手順書やマニュアル。
その説明をさらにしなくてはならない、といった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
その文章、正しく伝わっていますか。
少しのコツで、分かりやすさは格段にアップします。
この連載シリーズでは、文章校正=リライトのちょっとしたTIPSを取り上げます。
※弊社内で行われたリライト研修をベースにお伝えします。
監修:片山雄次
プロフィール
1980年より、一般消費者向け製品のマニュアルの設計・テクニカルライティングを中心とした業務に従事。
1991年、STC東京支部マニュアルコンテストを立ち上げ、1993年まで実行委員長の任に当たる。電子マニュアルを含め日本マニュアルコンテストでの受賞歴多数。
ユーザータスクをベースにした本格的な製品内蔵マニュアルの仕組みを開発。2003年、トピックマニュアルの嚆矢として携帯電話に搭載(使いかたナビ)したのを⽪切りに、液晶テレビ・BDレコーダー・デジタルカメラに実装。
Excelでテキスト原稿を作成するだけで、HTMLマニュアルやその印刷用pdfをデスクトップ上で完全自動生成するサーバーフリーのシステムを開発し、カーナビやケーブルテレビ端末などのマニュアルで運用中。
1. やや問題がある文章例
次の例題の文章は、やや問題があると思われる文章です。
例題1:
テレビとHDMIリンク対応のBDレコーダーなどをHDMIケーブルでつなぐと、テレビのリモコンでBDレコーダーなどを操作することができます。
一見、どこにでもありそうな普通の文章です。
ですが、文章を見ながら順を追って作業しようとすると、少し紛らわしいことに気づきます。
人によって解釈に迷いが出てしまう文章です。
実際の手順書やマニュアルでも、このような迷いが起こっていることがあります。
2. 伝わる文章にリライトするためのステップ
次のステップを踏んで、伝わる文章にリライトしてみましょう。
ステップ1
原文の問題点を「修正ポイント事項」として箇条書きで挙げましょう。
ステップ2
「修正ポイント事項」をクリアした文章をリライト例として考えてみましょう。
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少し考えてみてください。
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3. 原文の問題点を「修正ポイント事項」として箇条書きで挙げてみよう
以下は弊社の受講メンバーから挙がった「修正ポイント事項」です。
- 「『テレビとHDMIリンク対応のBDレコーダーなどをHDMIケーブルでつなぐと、』は長くて読みづらい。言いたいことを先に持ってきた方がわかりやすく、読みやすい?」
- 「曖昧用語『など』が頻出しており、説得力がないような…」
- 「『テレビ』と『HDMIリンク』の両方が並列で『~対応の』にかかりそうに見える」
- 「目的を先に、その方法を後にして、文章を分けて記載する必要あり?」
- 「『BDレコーダーなど』が重複しているため、冗長に感じます」
このように、メンバーからもさまざまな意見が出ました。
いかがでしたでしょうか。
4. 「修正ポイント事項」解答と解説
ステップ1
「修正ポイント事項」解答例です。
- 語順が悪いために、冒頭の「テレビと」は「HDMIリンク」と並列関係になり、「テレビとHDMIリンクに対応しているBDレコーダー」のようにも読める。
語順の原則1:節が先、句が後に(※)。
語順の原則2:長いものが先、短いものが後に「テレビ」の後の並列助詞「と」が「テレビ」をその直後の名詞とつなぐ働きをしてしまっている。
- 「BDレコーダー」は単なる例示のはずだが、2回も出現している。そのためこの語が主題のようにも見え、文章の主旨が掴みにくくなっている。
※節:文の中の、述語を1つ以上含むひとまとまりの修飾部。
※句:文の中の、述語を含まないひとまとまりの修飾部。
5. リライト例解答と解説
リライトには、必ずやらないと解釈に迷いが生まれたり、意味を読み解くことができなかったりといったことが起こるマスト(must)の修正と、より読み解きやすくするためのベター(better)の修正があります。
例題1(原文):
テレビとHDMIリンク対応のBDレコーダーなどをHDMIケーブルでつなぐと、テレビのリモコンでBDレコーダーなどを操作することができます。
語順を変えて係り受けをひとつにする(マストの修正)。
「テレビと」の語順だけを変更します。
修正例①:
HDMIリンク対応のBDレコーダーなどをHDMIケーブルでテレビとつなぐと、テレビのリモコンでBDレコーダーなどを操作することができます。
このようにすると、「つなぐ」に係る3つの修飾語が「HDMIリンク対応のBDレコーダーなどを 」「HDMIケーブルで」「テレビと」というように語順の長いものから順になり、係り受けの誤認がなくなります。
修飾語を被修飾語の近くに置くなどという解説も見かけます。しかしそれは誤りで、3つある修飾語を同時に被修飾語の近くに置くことはできませんね。
単なる例示でしかない「BDレコーダー」という語を2回も出現させない(ベターの修正)。
修正例②:
HDMIリンク対応のBDレコーダーなどをHDMIケーブルでテレビとつなぐと、テレビのリモコンでそれらの機器を操作することができます。
いかがでしょうか。一読して伝わる文章に変わったのではないでしょうか。
ちなみに、「テレビと」の助詞を「に」に変えると、「テレビに」が係る語は「つなぐ」まで出現しないので、語順を変えなくても係り受けはひとつになります。読みやすい文ではありませんが。
修正例③:
テレビにHDMIリンク対応のBDレコーダーなどをHDMIケーブルでつなぐと、テレビのリモコンでBDレコーダーなどを操作することができます。
せっかく作る手順書やマニュアル。少しのコツで分かりやすさが格段にアップすることがご理解いただけたのではないでしょうか。
この連載はシリーズでお届けしていきます。次回をお楽しみに。